第64回日本熱帯医学会大会 大会長
私は元々は分子生物学者でした。ある遺伝子のスプライシングにより、細胞内の情報伝達が変化し、細胞の生死が調節される仕組みの解明が私の学位論文の内容です。他の分野には目もくれず、細胞の中のことだけを考えていればよかった頃でした。学位取得後、血を吸うムシ(吸血節足動物)の生き様に強い興味を持ち、留学を機に分野を変えたところ、それらの虫が運ぶマラリア原虫やデングウイルスなどの病原体のことも研究の対象になりました。病原体が絡めば、感染症そのものにも自然と目が行きます。それらの学問・研究を通じて、蚊などの運び屋、多様な病原体、そして宿主となる動物や人間それぞれがエコシステムの一部と捉えた私は、迷わず西アフリカのエンデミック・エリアに飛び立ちました。タラップから降り立った時の、赤土の焦げた匂いと興奮は忘れられません。実際の感染症流行の現場に立つと、今度は公衆衛生学・疫学の重要性を目の当たりにします。日本では当たり前に受けられるはずの医療についても、その違いに刮目しました。殺虫剤塗布蚊帳を正しく使う、正確に診断をして感染者数を把握する、医療資源に適切にアプローチする、そういうことが一筋縄では進まない状況を知るにつれ、興味が沸々と湧いて止まりません。となると、もはや医学領域に留まることが出来ず、その国の成り立ちから紐解く必要すら出てきます。虫を対象にした純粋な生物学を志したつもりが、いつの間に歴史学や文化人類学にまで手を出すことになった私の二十年ですが、まだまだ学びの途上です。
2017年のグローバルヘルス合同大会は、そんな私にとって垂涎のプラットフォームでした。私はベクターコントロールに関するシンポジウムを企画しての参加でしたが、自分が所属する日本熱帯医学会の演題そっちのけで、国際保健医療学会と渡航医学会からの様々な発表を喜々として聴いて回ったことを覚えています。大きな東大のキャンパスがまるで大海原のようで、舟であちこちの島(会場)に漕ぎまわっているような気分でした。それから6年後に当たる本合同学会、会場はその時と同じ東大本郷キャンパス、期日・曜日まで全く同一です。コロナ禍を挟んでの開催、参加者の皆様の様々な想いを包摂すべく、鋭意準備を進めています。その開催を一番楽しみにしているのは、私自身かも知れません。私の知的好奇心の触覚は、今度は何を感知するのでしょうか。
第38回日本国際保健医療学会学術大会 大会長
3年に1度の開催が定例となったグローバルヘルス合同大会は2023年11月に開催されます。前回大会は2020年、新型コロナウィルス感染症(この3年間の親しみを込め「コロナ」と呼びましょう)が始まったばかりでしたが今回大会はウイズコロナで平常を取り戻そうとしている状態で開催されることになるでしょう。コロナはその直接の健康被害はもちろんのこと、それ以外に投げかけた被害も甚大でした。日本では、コロナ対応病床がひっ迫すると同時に、その他の病気に対する受療控えは多くの民間医療機関が持続化給付金を申請せざるを得ない状況を生み、また2022年のオミクロン波ではコロナ以外の多くの超過死亡、家でなくなる人の増加までもたらしてしまいました。「世界に冠たる国民皆保険制度」という美酒に酔いしれていた我々は、コロナにより公衆衛生と医療システムの硬直性に気付かされてしまったのです。また健康のために社会に強いた行動制限には、子ども・若者の教育の遅れ、自殺の増加、経済の停滞など、取返しの付かない代償が伴いました。今後我々は、同様に起こりうるパンデミックにどう対処していくべきでしょうか。
世界に目を転じ、グローバルヘルスについてみれば、コロナが国内の格差を拡大したとはいえ、アフリカの一人負けともいえるHIV/AIDSとは正反対にコロナに対してアフリカは強かった。一方南北アメリカ、ヨーロッパでの大変な被害、特に米国での被害が世界随一であったことは、今後の保健システムの在り方を再考するきっかけになるでしょう。
100年前の日本は、スペインインフルエンザの流行、そして関東大震災と大きな人災・災害が続き、その後第二次世界大戦へと泥沼にはまっていきました。コロナ、ロシアによるウクライナ侵攻、それに連動した世界の冷戦状態は100年前のアナロジーをあてはめたくもなります。その時と比べて我々は賢くなったわけではないかもしれませんが、少なくともその時代よりも多くの情報とICTを含めた新たなツールを持っています。これをどう生かして新しい時代を切り拓くのか、学会の垣根を超え、思考の壁を壊して、共に考えましょう。
第27回日本渡航医学会学術集会会長
このたび、日本熱帯医学会、日本国際保健医療学会、日本国際臨床医学会の皆様とともにグローバルヘルス合同大会2023に参加させて頂くこととなりました。グローバルヘルス合同大会は2017年、2020年に続いて今回が3回目になります。
日本渡航医学会は海外に渡航される方にその羅針盤を提供することを一つの目的としています。学術集会では大会賞として“マルコ・ポーロ医学賞”を授与しています。世界各地に渡航された方、渡航の支援を行っている方の経験を学会員に共有して頂くことは日本渡航医学会だけではなく、今回グローバルヘルス合同学会を共同開催する学会の皆様にもお役に立つことだと考えています。
新型コロナウイルス感染症は人間と動物が近い距離で暮らす環境から発生し、人の海外への動きと共にまたたく間に世界中に広がりました。世界中に生息する人類、動物を視野に入れなければパンデミックのコントロールが難しいということも明らかにしました。文字通り“グローバルヘルス”がいかに大切であるかがはっきり示されたように感じます。
2020年の学会は新型コロナウイルス感染症のためオンライン開催を余儀なくされました。オンライン開催は海外からの参加者や遠方からの参加者にとっては利便性が高く、グローバルヘルス合同学会には適した開催形式だったと思いますが、オンラインでは人と人との心の通い合いがないことも明らかにしました。今回の合同学会は4学会の総意で現地開催としました。
会場の東京大学本郷キャンパスは22017年に第一回の合同学会が行われた会場です。当時とは環境も異なっており、その違いを皆さんに感じ取って頂けるものと思います。現在の藤井総長は、大学の最も大きなテーマに“Diversity”を挙げておられます。グローバルヘルスに関心のおありの皆様に一人でもおいで頂くことを願っております。
安田講堂の銀杏並木の美しさを皆さんと一緒に愛でながら楽しく、熱い学会を行うことができることを楽しみにしております。
第8回国際臨床医学会学術集会大会長、同副大会長
このたび、歴史ある日本熱帯医学会、日本国際保健医療学会、日本渡航医学会の皆様とともにグローバルヘルス合同大会2023に参加させて頂く運びとなり大変光栄に存じます。初の4学会合同開催であった2020年に続き2回目の参加となります。
国際臨床医学会は2016年8月に設立された若い学会です。国際診療に携わる多領域の医療者が集まり、医療の国際化を追求し、活動を通じて国民にとって有益な医療の発展を目指し、成果を広く社会に普及することに努め、人材育成等において指導的な役割を果たすことを目的としています。素晴らしい国民皆保険制度を持つ我が国は、優秀で献身的な医療者に恵まれ、低価格で高品質の医療を国民に広く提供し得ているものの、さまざまな事由から制度維持の困難が叫ばれています。その一方で国の施策もあり、外国での日本の医療に対する関心は高まり、訪日者の急激な増加も相まって外国患者の受け入れも増え、臨床現場で戸惑いの声が聞かれ始めた時期と本学会の設立は重なります。
学術集会は発足当初より多方面から多くの熱心な人々が集い、活発な意見交換の場として盛況であり、開催毎に規模は増し参加者の多様性も豊かになりました。学会活動の一環として国際臨床を支える人材の「見える化」を図り、ICM医療通訳士認定制度、日本国際看護師(NiNA)認定制度を立ち上げています。2022年度には国際共同臨床研究の発展の一端を担うべく国際臨床研究者認定制度を立ち上げます。
コロナ禍が深刻な最中、対面での交流が途絶し、ここまで発足当初より築いてきたものが失われる不安に苛まれたこともありましたが、幸いICTの発達に救われ、また、新たなワクチン開発の迅速な展開により、現在、社会活動が急速に回復していることに救いを感じます。しかしながら、ポストコロナ禍の世界に対峙していくのはこれからです。良い面も、困った面もある資本と情報の先導するグローバリズムを、どのように国際診療の真の豊かさにつなげていくか。本合同大会は、コロナ禍の経験を踏まえ、今だからこそ考えられる取り組みの発展の場として、またとない機会を提供すると考えます。
本合同大会では医療者、学生のみなさん、医療に関わる事務職のみなさん、そして国際診療に興味をお持ちの一般市民のみなさんを含め、多様な皆様の参加を歓迎致します。秋の深まる本郷キャンパスの散策をお楽しみ頂きつつ、会場での様々な出会いから本合同学術集会のテーマを是非、体感してください。
多くの皆様をお迎えできることを大変楽しみにしています。